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scene#032 [2004.07.19-20]

裏切りの山、裏切りのビール【鹿島槍ヶ岳】

(その2)

しばらく進んでいくと、何やら看板がでている。

また、冷池山荘新装開店のお知らせだろうか。わざわざ登山道に告知を出すとは、商売熱心・・・あれ、違うの?


ガレ場通過注意事項

だそうな。おいおい、穏やかじゃないな。今までの穏やかな、歩きやすい道からはとうてい信じられない。

落石注意

と書かれている。ソニックブラストマンみたいに己の拳で落石をたたき壊してやらんといかんというのか。

注:ソニックブラストマン→ゲームセンターに10年ほど前に置いてあった、パンチの威力を競うゲーム。

サルやカモシカが上方にいる時石が降ってくる事もあります

だそうな。大自然の驚異やね。サルのせいで落石だったらメッチャ悔しいが、カモシカによる落石だったらなんかラッキー、みたいな気が一瞬した。しかし、どっちにせよその落石に当たってお陀仏なのは自分なワケで、どっちも得なもんか。

何しろ、穏やかじゃない事が書いてあるぞこれは。一体どんなトラップがあるというのだろう。筋肉番付のSASUKEみたいなヤツがあるのか、それとも東京フレンドパークみたいなアトラクションなのか。


正体現る。

あ、なるほど、雪渓を横切るのだな。

そりゃそうだ、沢を挟んで向こう側にある雪渓を遠く眺めて「ほー、遅くまで雪が残っているもんだなあ」なんて感心していたが、こっちの斜面にだってあるに決まってる。


結構深い谷だ。日当たりは良さそうに見えるのだが、この谷の深さが日光を遮り、この季節まで雪を残してしまうのだろう。


近づいてみると、雪渓、というよりは泥まみれの残雪といった感じだった。除雪した雪が道路脇の広場に積み上げられているみたいな感じ。

雪渓の上から、瓦礫がどしゃーと覆い被さっているし、土砂もどしゃーと。おっと私としたことが駄洒落を言ってしまった。

なにやらガリガリという音がするので、目をこらしてみると種池山荘のスタッフと思しき人が、シャベルで雪渓を切り崩していた。登山道を確保するためらしい。

メンテナンス、ありがとうございます。お陰でこうして快適に歩いていけますです。


雪渓を渡り、しばらく進んでいくと景色が一気に開けてきた。ただしガスっているけど。登山道も、石を敷き詰めた「石畳」風に仕上がっていて、何やら気合いが入っている。どうやら、稜線沿いの山小屋「種池山荘」はもう近いらしい。

そういえば、かすかに発電機のうなり声がひくく聞こえてくる。


おっと、発見。

種池山荘がガスの向こうからぼんやりとその輪郭を現しだした。

あともう少しだ、がんばれ。

 

・・・って書くと「へべれけ紀行」っぽくないので、

ケッ、もう種池山荘かよ。チョロいんだよ、チョロすぎんだよ

と強がっておこう。


しかしまあ、嬉しくてしょうがなかったんだな、今こうして写真を見ながら振り返ってみると。

何しろ、急に写真を撮る枚数が増えてやんの。さっきから似たような写真ばっかりだぞ、おい。

自分自身では、「旅のフィナーレ」的な感動を覚えていたのかもしれない。

おーい、ここはあくまでも中継点ですよー。今日の目的地はこの先にある冷池山荘ですからねー。

わかっとるわい、そんなこと。


周囲はコバイケソウが咲き乱れていた。

「ご覧兄貴。コバイケソウが綺麗に咲いているじゃあないか」

「なるほど、確かにこれはコバイケソウだな」

 

嘘です。コバイケソウって名前、たった今webで調べました。

あともう一つ嘘を告白すると、兄貴は花に全く興味がない男です。

こういうところで見栄張ってどーすんの。


 

 

ということで、コメント自粛。


種池山荘に到着。200人収容の比較的大きな山小屋だ。12時35分着。登山口から2時間45分経過の時点だ。思ったよりも早い到着。


種池山荘前で記念撮影。お勝手口のように見えるが、どうやらここが入り口らしい。

左側の窓に、心霊写真のようなものが写っているが(日本語が変)、実物の人間なのでご安心を。

雨がぱらつく中、多くの登山客が山荘の中に逃げ込んでいた。中から、外の様子を心配そうにうかがっているワケだ。


「お、おい、あれは何だ!」

指さす方向には、「水」の看板。そして、その下に「生ビールあります」の文字が。

「ということは、この種池山荘は水イコール生ビールということでいいのか」

「ビールも売ってる、って事だろ?」

「まさか、蛇口をひねれば生ビールが出てくるというのか」

「それはない」

「お茶や御飯を炊くのに使う水も、全部ビールだと、言ってるのか!」

「言ってないって」


そうこうしているうちに、オッチャンが食券を手に生ビール売り場・・・違う、水売り場併設の生ビール売り場にやってきた。

しばらく様子をうかがってみた。

ああ、やっぱり生ビールをゲットしておる。

でも、不思議とうらやましくない。これから先、まだ行程が続くから、というのもあるが、この荒天の中ビール飲みたいと思うもんか。

汗はかいていても、ビールっていう気分じゃない。

その点、このオッチャンらは偉い。レインウェアをフードまですっぽりと着こんで、それでも生ビールを飲もうというガッツ。

「アホだな、あの人達。これから下山するんだろうけど、こんなところで飲まなくてもいいのに。足下ふらついて怪我するぞ」

と兄貴は言う。確かにごもっともだ。怪我すんなよ、オッチャン。

・・・自分自身がビールに対する欲求が薄い現在、彼らのビールに対する飽くなき欲求を支持する気にはならなかった。薄情者だ。

ちなみにここで水を買ったら、1リットル150円。稜線沿いの山小屋なので、雨水を貯めたものを使うしかない。だから、結構高い。


さて、ここで我々はお昼御飯だ。

・・・「我々」といっても、おかでんだけ。兄貴はこまめに栄養補充を行っているので、「お昼御飯」という位置づけのものはない。山登りをする上では、兄貴のスタンスの方が正解。

「なんだ、モロにお弁当っていうお昼御飯じゃないか」

「なんか楽しいじゃん、こういうのって。晴れてれば最高だったんだけど」

「いや、まあ確かにそうだけど、ピクニックに来たみたいだな」

「あれ?ピクニックじゃなかったっけ?」


「賛同を得られないみたいなので、一人でピクニック気分に浸りまーす」

小雨の中、お弁当を頂く。

「どうだ、ピクニック気分か」

「いや・・・雨降ってたら、普通ピクニックって中止だよな。何やってんだろ、僕ら」

「登山だよ」

「ああ、なるほど」

つまらん会話だ。


ここから先は、ハイマツが茂る登山道となる。雷鳥が多数生息しているらしい。種池山荘にも、「ライチョウからのお願い」という看板がでていた。

「驚いた。ライチョウって日本語しゃべれるんだ」

「突っ込むところが違うと思う」


12時53分、登山再開。鹿島槍方面、とかかれた看板の前で記念撮影。

・・・何の記念なんだろう。

「荒天で視界が全く開けないのに、無理して山に登る馬鹿な青春を送ってました記念」

ということにでもしておこうか。


爺ヶ岳に向かう稜線歩きの開始。

開放的な雰囲気が、より一層山歩きの醍醐味を感じさせてくれる。

 

・・・晴れていれば、の話。


なーんか前方にとんがった山影が見えますねえ。アレが爺ヶ岳なのだろうか。それとも、ブロッケンのような「幻」なのだろうか。


ほーら、近づくと姿が消えてしまった。山頂なんてものはネ、近づけば遠のき、遠のくと近づくものなんだヨ。

ハイ先生、何言ってるのかさっぱり理解できません。

うん、僕もわからん。

晴れていると最高に気持ちよさそうな砂利道を歩く。稜線が広々として快適。

 

・・・晴れてれば、の話。

 

なんだか、定番のオチになりつつあるな、このパターン。


だんだん稜線の脇が切り立ってきて、登山道が狭くなってきた。

前方に、またぼんやりと爺ヶ岳の姿が見える。

砂漠で見たオアシスの蜃気楼のように、旅人を惑わす光景だ。幻だと呼び止めたにもかかわらず、その蜃気楼に向かっていった人は二度と戻ってこなかった・・・。

 

いやいや

 

ちゃんとこうして戻ってきて、へべれけ紀行執筆してるし。


爺ヶ岳は、南、中、北の3つのピークがある。このうち、中岳が最も高い位置にある。

南岳は、山頂に登らずに巻き道で楽をさせて貰うことにした。山頂に行っても、何も見えないんじゃあしょうがない。


登山道脇に雪渓が見えた。まだまだたっぷりと氷が残っている。


細かい雨のため、眼鏡に水滴がついて大弱り。前が全然見えない。

眼鏡用ワイパーを、切に欲しいと思った。

ただし、そんなものが目の前5センチくらいのところでウィーン、ウィーンと動かれたら、きっと気分悪くなってしまうだろうが。


中岳も巻き道があって、山頂をスルーすることができる。

兄貴は「いやもういいんじゃないの、登らなくても。どうせ何も見えないし」

と山頂行きを嫌がったが、

「馬鹿な事を言うな。明日天気が回復するめどが立つわけでも無し、せめて今日中に爺ヶ岳ピークの中岳くらいは登っておくぞ。いい景色が見たけりゃ、東京タワーでも何でも行ってくればいいんだ。山に登る以上、山頂を制圧せずして貴様それでも軍人かーッ」

「いや、別に軍人じゃないし」


渋る兄貴のケツを蹴飛ばしながら、前に進む。

目の前の岩山、あれがどうやら山頂っぽい。登山道分岐からすぐそこだ。


おっ。なにやらポールが立っているぞ。やはりあそこが山頂だったか。


爺ヶ岳山頂。13時41分着。

「とりあえず記念撮影だ」

ということで写真をとる。

イマイチどういう格好をしていいのかわからなかったので、無意味にガッツポーズをしてみる。別に嬉しかったからではない。

はっきり言って、兄貴同様こんな荒天のなか、爺ヶ岳なんてどーでもよかったりする。さっさと山小屋に入りたい。

さすがにこの天気だと、「山小屋でびーるびーる」という欲求はすっかり萎えてしまっていた。

(つづく)

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