山頂から七高山方面を見る。さすがに標高差が6mしかないので、高さに違いは感じられない。09:45。
東側は七高山が「俺も標高高いんだぞ」と威張っているため視界が開けないが、西側・・・日本海方面は、これだ。
山頂周辺の岩場の向こう側には、どーんと日本海。これ、強烈な光景。そして、ものすごい高度感だ。
鳥海山は裾野が広い山だと思っていたのだが、いざこうして登ってみると断崖絶壁にいるような気になる。
ちなみにこの辺りの岩場は、浮き石状態でガラガラしていて、うかつによじ登ろうと思っちゃいかん。目の前の岩場によじ登って、日本海を眼下に見下ろしてやろうと思ったが、やめた。09:47。
一通り山の風景を360度楽しんだところで。
さて。
しばらく手をすりすりとすりあわせて、心の準備をして。
ぐらぐらする岩の上で、お尻のポジションをなおして。
おもむろにザックから取りい出したるは、もちろんビール。
じゃーん。秋味。もう発売になっていたんですね、秋味。おかでんは秋になると、このビールしか飲まなくなるくらい、秋味が好きだ。今シーズン初秋味を、鳥海山の山頂で。いいねえ。
ぐらぐら。
「うひょー」とかいって喜んでいると、座っている岩場がぐらついた。うーん、ここでビールを飲んでしまうと、帰り道相当危ないんじゃないのか?
しばらく、手にしたビールを握りしめ、ぐっと考える。ここで飲むのは最高だ。しかし、下山途中で怪我をしてしまったら最低だ。最高から最低を引いたら、プラスマイナスゼロくらいにはなるだろうか?・・・ならない気がする。ここでビールを飲むことによって得られる「最高」はせいぜい100点くらいだが、怪我した最低は1000点くらいのポイントがつきそうだ。差し引きマイナス900点。09:48
「ちっくしょぉぉぉ」
と叫びながら、ビールをザックに投げ込んで水のペットボトルを引っ張り出した。
ぐびり。
ああチキンだとも。兼ねてからの目標だったビールを諦めて水を飲んだとも。でもな、山のぼって怪我しちゃ意味ないんだよ。予防保全ってのは山で最も重要なんだよ。・・・ましてや、ビール飲んで怪我しました、じゃあねえ。
危険地帯である山頂ではビールはやめだ。一旦、御室まで下ってから飲むことにしよう。09:48。
しばらく山頂で時間を過ごす。別に高所恐怖症でも何でもないおかでんでさえ、やや緊張感を強いられた場所。高いところが苦手な人は、登っちゃいかん山頂だ。槍ヶ岳の山頂ほど「もゥちょと足踏み外すと落ちそうです」的感覚ではないが、それに準じる怖さがある。
・・・高所恐怖症の人が山に登るのか?という疑問はあるが、とりあえず忠告しておきます。
下山ルートは、行きに使った道ではなく、御室に真っ直ぐ降りるルートを使ってみた。こちらも、岩と岩に挟まれたトンネルをくぐったりいろいろ楽しい仕掛けが満載。ただし、行きのルートよりかは難易度は低いようだ。岩のトンネルをくぐった先に、御室を見下ろす斜面があった。見ると、下からアリンコのように沢山の登山客が登ってきている。やぁ、今日は大盛況だ。相当な行列になって、一歩一歩登ってきているので登山道が完全にふさがれてしまった。仕方がないので、登山道ではない岩場に待避して、強引に標高を下げていった。
登っている人をみると、結構山慣れしていない人も多いようだ。オッチャンでも、子供が遠足の時に使うようなおむすび型リュックを背負って登っていたりする。もちろん靴はジョギングシューズだ。標高は高いし立派な山だけど、幅広い年齢層と経験値の人が集っている山ということなのだろう。
おむすび型リュックを背負って、ふぅふぅ言っているオッチャンに話しかけられた。
「あと山頂までどれくらいですかねぇ?」
「そうですねえ、体力次第ですけど20分もあれば登れると思いますよ」
「こんなきつい登りになるなんて・・・。ふぅ。もう一本、別の道があると思うんですけど、そっちの方が楽ですかね?大回りしてるみたいですし」
「いやー、そっちの方がきついですよ、どこに道があるのかよくわからないですし。ここは諦めて真っ直ぐこの道を進んだ方がいいと思いますが」
「そうですか。はぅ。いやー、しんどいなあ。あははは」
頑張ってください。でも、これだけの大量の人たちが一度に山頂におしかけたら、恐らく山のてっぺんに立てない人も出てくると思うのだが、大丈夫だったんだろうか。10:03。
やはりサポーターを巻いている右足の融通がきかず、動きにくい。ぎくしゃくしながら、御室まで退却完了。10:10。
何やらえらく立派な石垣が組まれている。お城でも作るつもりだろうか。そして、その石垣の手前に、鳥居が。大物忌神社のものだろう。ということで、山小屋は鳥居の内側に位置することになる。すなわち宿泊客は宿坊・・・というと仏教用語なので、神道用語で言うと何になるのかな?・・・に泊まるのと等しいわけだ。
ごそごそ。今、調べてみた。参籠所、だそうで。10:10。
石垣を登ったところに、御室参籠所(収容人数150名)があった。ここでは二食付きの宿泊ができるが、料理は非常に質素だという話を聞いたことがある。「水がない立地条件なので、食事の時にもお茶が出ない」「夕食はご飯と漬け物だけ」らしい。お詣りにきているのだから、贅沢は不要、最低限のものでよかろうという訳か。
当初は酒田泊ではなく、この山小屋で泊にしようと考えていたのだが、さすがにご飯と漬け物が夕食、と聞いてやめた。これではビールが飲めないではないか。
その判断は大正解で、昨晩は酒田で美味いビールを浴びるように飲んだわけだが。10:10
二棟ある山小屋の奥に、納屋みたいな建物があった。これが、大物忌神社だった。さすがに、標高2,100mの高いところに設置されているだけあって、きらびやかな装飾などは一切省略。ひたすら質実剛健に作られていた。
ご本尊は、引き戸を開けた中に鎮座していらっしゃった。一度に一人しかお詣りできない小さな入り口の前で、ガラガラと鈴をならしてお祈りする。
ほこらの横に、何やら注意書きが立てかけられている。読んでみると「神城につき煮炊き禁止」としたためられていた。
なるほど、確かにこの辺りは石畳になっていて床が安定しているので煮炊きに向いているけど、さすがに神様のそばでそれをやっちゃ失礼か。
ちなみに大物忌神社の本殿は、山を下りた吹浦にあるらしい。・・・いや、今調べてみたけど、逆だった。ここにあるのが、本社。山の麓にある立派な神社は、「口の宮」と呼ばれる「出張所」らしい。
なんでも、欽明天皇の頃に創祀されたらしい。欽明天皇?名前は聞いたことがあるけど・・・ええと、えっ?聖徳太子よりも昔の話じゃん。推古天皇の親父さんにあたる人だ。即位したのが西暦539年。なんという昔話だ。飛鳥時代。・・・ホントか?というか、嘘くせぇ。まだ、坂上田村麻呂が東北遠征して蝦夷討伐していない時代の話なんですけど。
いやまあ、事の真偽はともかくとして、歴史ロマンですなあ。
御室前から、千蛇谷を見下ろしたところ。
ハート形の雪渓が、登山者を誘惑する。
「罪作りな山だ」
思わず、意味不明な言葉をつぶやいてしまった。10:13。
では、では、では。
お待たせしました、ビールのお時間にしようじゃあないか。この場所だったら、安全は確保されている。酔っぱらって滑落、なんて事はあるまい。
ここから先の下山ルートも、見る限り特に危ない箇所はなさそうだ。何しろ、ハートの雪渓があるようなラブリーな道だ、きっと何も無いに決まっている(過信。山では絶対にやっちゃいけません)。
山頂方面を見上げながら・・・目の前に見える山は、山頂の手前にある「でっぱり」に過ぎない・・・「秋味」をしゃこっと開栓。
この瞬間、鳥海山が秋になった。10:16。
ぐいぐい。
いいねェーーーーっ。美味いよ、このビールは。泡が沢山出てしまい、炭酸が喉に突き刺さって正直痛い。一口飲んだ時はむせた。しかし、それがまた良い。
眼下に見下ろす絶景と、今さっき山頂を踏破してきたんだという満足感と、数年越しのリベンジマッチ達成という歴史感と(?)、そして今こうして朝っぱらからビールを飲んでいる背徳感。全てがビールの美味さをプラスに加速させているわけですよ。
ぐいぐい。
改めて言う。いいねェ。10:18。
続々と谷底から人が登ってきた。まさに、「続々と」という表現がぴったりだ。思わず、芥川龍之介「蜘蛛の糸」で、カンダタが糸をよじのぼっている後からついてきた罪人たち、を想像してしまった。
それくらい、多い。人気の山だなあ。
感心して眺めていたら、数名のオッチャンから「おっ、ビール飲んでるの?いいねえ」なんて声をかけられた。この山域に出没する山ヤは結構フレンドリーらしい。
ワンゲルらしき大学生たちが、記念撮影を撮っていた。「はい、チーズ」というかけ声ではなく、「アイン、ドライ・・・」と、ドイツ語でのカウントだったのが面白かった。10:28。
ビールを飲んで一息。そろそろ下山するかね・・・。
十分、幸せを満喫できた。鳥海山、お前最高だぜ。俺も最高だけどな。
ははははは。
高笑いをして、御室を後にした。帰りは、千蛇谷を使って一気に退却だ。
千蛇谷をへこへこと下る。サポーターをはめている不自由さが、下り道になって急に実感する。思った通りのスピードが出ない。動きがぎこちない。
ぎっこんがっこんと体をゆすりながら下っていくと、道のあちこちに石像が置いてあることに気がついた。さすが山岳信仰の山だ、登山道は即ち大物忌神社への参道なわけで、途中途中に神様だか仏様だかが祀ってあるというわけか。
感心しながら道を進むと、ここには何やら赤い神様が。
えーと、ウルトラマンセブンっすか。
ウルトラの星から来た神様らしい。山頂にあった「宇宙がどうたらこうたら」という落書きとひょっとして関係がある・・・わけないな。
誰が拝むんだよ、この神様。
多分、誰にも拝まれていないだろうなー、と思ったので、とりあえず手を合わせておいた。御利益がありますように。10:43
ひたすらつづら折れの道を下っていく。周りに木は生えておらず、眺めがいいので非常に気持ちいい。正面に日本海と水平線を眺めながら、というのもなかなか得難いシチュエーションだ。
しかし、下から登って来ている人たちは、今にも死にそうな顔をしながらぜぇぜぇ言っている。
中には、僕に
「あと山頂までどれくらいですかねえ。はあはあ」
と聞いてくる人も居て、
「何を言ってるんですか、山頂に行く道はここじゃありませんよ」「えっ」
という清々しいジョークを飛ばそうと何度思った事か。いや、実際にはやってないですってば。10:53。
彼等が何故絶望感たっぷりで道を登っているかと思って振り返ってみた。
・・・なるほど。こうして振り返ると結構な急斜面だ。しかも、山頂の所在が分からない上に、御室すら全く見えない。
そういえば、御室はちょうどテラスのように平らに張り出したところにあったっけ。だから、ちょっと高度を下げたら、すぐにその姿が見えなくなってしまう。
これだと、登っている人からすれば「一体どこまで登り続ければいいの?」と不安になる。ただでさえ、全く日影がなくて体内の水分を奪いまくる登山道。目標が見えないまま登り続けるとなると、相当へばりそうだ。
外輪山経由で作戦成功、ということでいいね?11:01。
ワンゲルの奴らをぐいぐいと抜き去り、あー、女性比率が多くていいなーなどとちょっと思ってみたりしつつ下山続行。
目の前に雪渓がある。太陽に照りつけられているにもかかわらず、この季節でまだ健在だ。初夏の頃などはもっともっと広かったのだろう。
雪渓をうまいこと避けて対岸に渡るのだろう、と思っていたが、実際はずかずかと雪渓渡りをするようになっていた。横断ポイントにはトラロープが張ってあって、目印は用意されている。このカンカン照りの中、まさか氷の上を歩くことになるとは思わなかった。この雪渓をずーっと下っていくと、いずれ鳥越川、という川になるらしい。11:10。
雪渓のそばから、川下を眺める。えーと、涸れ沢ですねえ。水は流れていなかった。雪解けの季節だけ現れる川なのかもしれない。
正面には、稲倉岳が見える。こちらから見ても、やはり雄大で魅力的だ。あの山にとりつくまでの間に、「蟻の戸渡り」だの「ジャンダルム」と呼ばれている場所があるようには、こちらからでは見えない。
・・・と思ったら、あー、写真を拡大したら、確かに一カ所やばい切れ落ち方をしている稜線を発見。確かにこりゃ大変そうだ。11:15。
後はもう下る一方だ、と勝手に思いこんでいたので、登りが発生して面食らってしまった。思わず親指を下に向けてブーイング。よく考えてみれば、谷底にある今のポジションから稜線にある七五三掛まで登り直さないといけないんだっけ。道は崖をよじ登るように作られていて、あちこちにハシゴがかけられていた。先ほどまでの下りで疲労物質が溜まっている脚には結構しんどい。11:18。
七五三掛に着いて、ようやく御浜小屋方面への下り道に切り替わった。うーん、だらだらと道がある。結構うんざりだ。
最初は見晴らしが良い清々しい道、だったのだが、こうも上から照りつけられると正直参る。サポーターで自由を奪われた右膝がペースを崩すし、サポーター無しの左足は既に小刻みにふるえだしてるし。
なるほど、こうやって自分の体重を筋肉で支えられないから小刻みにふるえているわけだな。で、体重が支えられないから、膝に負担が直接来て、痛みが来るわけだ。
今頃になって、人体の神秘についてようやく納得。お前の膝が痛いのは単に筋肉不足じゃ。そうと分かったら、家に戻ったら脚の筋トレやりなさい。
へーい。
その前に、無事自宅に戻らないと。何しろここから鉾立までまだ2時間近く歩かなくちゃいけないし、そこから車で・・・ええと、休み無しでも6時間くらいはかかるのかな?それくらい遠い遠いマイスイートホーム。ああ、それにしても暑い。下山したら、まずは冷たいお茶を飲みたい。もうこうなると、ビールがいいとかそういう状況ではない。ビールが美味いのは「そこそこ喉が渇いている」時。本格的に渇すれば、水かお茶に限る。
このあたりになると、すれ違う人が殆ど居なくなった。この時間から山頂を目指す人は少ないし、下山するにしてはちょっとだけ時間が早い。静かな山歩きが楽しめた。11:21。
ペースが落ちてしまい、ほぼ標準コースタイムのペースで御浜小屋に到着した。
御浜小屋前には、びっくりするくらいの人が集まっていた。みな、「許すな!企業の横暴を!労働者に権利を!」とシュプレヒコールを・・・やってないか。メーデーじゃないんだから。でも、集会をやってるかのような人の多さだ。
何をやっているのかというと、みなさん、ニコニコしながら鳥ノ海に体を向けて、おべんとを広げている。なるほど、山頂には登らないけど、ここまでやってきておべんと食べて帰る、というピクニック客が沢山いるのだな。子供連れの人たちは、みなここでひとときを過ごして引き返していくようだ。
子供が、「ボク今日頑張ったんだから、おやつ食べてもいいよね?」とお母さんにおねだりしていた。おお、よく頑張ったぞ。いくらでも食べていいぞ。通りすがりのオレが許す。
鳥ノ海の東側から、すーっと低い雲が稜線を越えて忍び寄ってきていた。外輪山で見えた、日本全土を覆う雲がようやくこの地にも訪れつつあるようだ。あと数時間もすれば、この辺りは雲の中に包まれるのだろう。ホント、絶妙なタイミングで今回は山に登る事ができたもんだ。作戦大成功、ということでいいね。12:00。
御浜小屋から鉾立への道は、登りも下りも結構な人の数だった。どちらかと言えば、下山していく人の数の方が多いが、まだまだこの時間でも登っていく人の数も多い。往復約3時間の御浜小屋までのピクニック、午前の遅い時間に鉾立を出たとしても何とかなる。
すれ違いざまにおばちゃ・・・いや、お姉さま方といろいろお話をする機会があった。山の上はどうだったか、とか、歩くの早いねー、とか、あらいい男ね、とか。
すまん、最後の一言は妄想だった。
いずれにせよ、いつもの山登りよりも遙かに多く通りすがりの人に話しかけられ、その都度ちょっと身構えてしまった。いや、人見知りしたからではない。ちょうどこの時期、アワレみ隊OnTheWebでは「顔色伺い」というコーナーで読者アンケートをとっていたのだが、読者さんからのコメントで「どこかの山でお会いできるといいですね」という内容のものが複数、投稿されていたのが心の中で引っかかっていたからだ。「あっ、おかでんさんですか?」なんて通りすがりの人に話しかけられたらどうしよう、とドキドキしてしまっていた。結局、1億2千万人いる日本国民数の中で、おかでんにばったり出くわすアワレみ隊読者さんなんて確率としてほぼ皆無な訳であり、そのドキドキは杞憂に終わったわけだが。
でも、「この人僕の事を知ってるんじゃないか?」と思ってしまうくらい、あれこれと通りすがりの人と喋った。普通、挨拶+一言二言、で終わるのに1分以上喋ることも多かった。どうも、この山に登る人は非常にフレンドリーらしい。山形・秋田の人たちの特性なのだろうか?とても楽しい。
おっと、遙か先に鉾立駐車場が見えてきたぞ。目指すは、あそこだ。12:10。
霞んでいる上に、写真が小さくなっているので判別不能だけど、水平線すれすれに平らな島「飛島」が見えた。
いつかアワレみ隊で遠征したいと思っているところなんだけど、船の便が朝9時15分の1日1本しかないので、なかなか果たせぬ夢となっている。13:08。
この登山もそろそろ終わりを迎えようとしている。コンクリートの階段が膝にラストスパートのむち打ちをくれてやっている状態のとき、真正面に大きく鉾立駐車場の姿が見えてきた。あともう少しだ。13:10。
13時13分、下山。約7時間で山頂往復完了ということになる。懸念されていた右膝は、さすがにサポーターのお陰でぴんぴんしていた。凄いぞサポーター。
ただ、片膝だけだと相当バランスが悪いので、使うのであれば両膝で使いたい。ただし、そうなると下山時に相当行動に制約が出る事が予想され、下山所用時間が伸びる事が予想されるが。
結局、御浜小屋から鉾立まで70分を要しており、これまた標準コースタイム通りだった。膝サポーターのせいで、下山時にがくっとペースが落ちた。
下山後、すぐに自動販売機のところにいって、冷たいお茶を2本、合計1リットル飲んだ。いやー、生き返る。ザックの中にはまだ水が残っていたのだが、冷たいヤツをぐいっとあおって、体温を中から下げないと熱射病になりそうだった。
汗でびっしょりの服を着替え、一息ついたところで鉾立を後にした。もう少しゆっくりしたいところだが、何しろこれから埼玉まで戻らないといけない。時間が経つと、山登りの緊張が解けてだんだんぐったりしてくるので、まだ気が張っているうちに退却開始しないと。
居眠り運転した結果、鳥海山山頂よりも天高く、お星様になってしまっては意味がない。
酒田市街に戻っている最中、海側にでっかい風力発電を発見した。このまま真っ直ぐ帰るのも勿体ないので、ちょっと寄ってみることにした。14:26。
カーナビによると、ここは火力発電所があるのだが、その海側にはいくつも風力発電を併設しているらしい。
岸壁にそって、50m間隔程度でいくつもの扇風機が並べられ、ぐいんぐいん回っていた。
試しに窓を開けてみる。
ごぅぅん、ごうぅぅん。
非常に大きなプロペラが空気をかき回しているので、何やら低い音があたりにとどろいていた。夜になると結構気持ち悪い音だ。関東近辺にはこのような大規模な風力発電は無いので、非常に珍しく見学させてもらった。14:29。
お昼ご飯食べそびれちゃったなあ、参ったなあと言いながら山形自動車道に入る。
この道、単線道路ながら真っ直ぐで非常に走りやすい。ただし、調子に乗ってぶっ飛ばすとすぐに県警交通機動隊にお呼び立てを喰らうようだ。あちこちで御用になっている車や、物陰に隠れているパトカーをお見かけいたしやした。
もちろん、安全運転でドライブ。
正面には月山が見える。盾状(アスピーデ)火山、といわれる所以がよく分かる。非常にのっぺりとした山だ。
ここ、試験に出るから語呂で覚えておくように。
がっさーん(月山) 立て!ジョー!(盾状) 遊びでねぇんだ(アスピーデ)
大泉校長の名言ですな。14:56。
月山道路を通って山形市街に向かっていると、だんだん雲行きが怪しくなってきた。そうか、この辺りはもう雨一歩手前か。15:27。
お昼ご飯を食べ損なった、というのもあるのだが、ソレより何より、お風呂に入っていないという現実があった。鳥海山を下りたところに入浴施設はあったが、鉾立で下山後ぼんやりしていたら、周りの登山客が「降りたところに風呂があったから、そこに行こうぜ」と会話しているのを耳にして、やめにした。みんな行くならいいや、と。
で、今に至る。ううむ、不衛生だ。早く風呂に入りたい。でも、このまま高速道路を突っ走っていたら、そのまま自宅の「おかでんの湯」に浸かることになるぞ。いや、折角だから今日は登別カルルスくらいは奮発してもいいぞ。バスクリンだけど。うわあ、それはイヤだ。
結局、「今更蔵王に行ってもドキドキしないんだけどなあ」と言いながらも、その泉質のすばらしさには代え難く、蔵王温泉行きを急遽決定。
目の前に見えるのが、蔵王。15:56。
無料駐車場に車を停め、温泉街に足を踏み入れた。ここには、上湯、下湯、河原湯という3つの共同浴場がある。観光客向けの大きな日帰り入浴施設が他にもいくつかあるが、そんなところに行くより、こっちの方が百倍良い。値段安い上に、風情がある。
今回はバスターミナルに近い下湯のお世話になることにした。16:30。
この時間、日帰り入浴客はもう引き上げてる時間だし、宿に泊まる人は宿の風呂に入っている時間だし、で客はゼロだった。有り難い。
心おきなく、風呂場の写真を撮らせて貰った。
自分も写っておく。
真っ赤に日に焼けたのがよく分かる。いやあ、今日は照らされたァ。
さりげなく怖いことを書いている入浴心得。
蔵王で一泊して帰る事もちょっと考えたが、一泊して翌朝どうするのよ、という具体的なプランが思いつかなかったので、もうさっさと今日中に完全撤退することにした。
山形の蕎麦屋巡りを続行する気は、いまいち起きなかった。さすがに4軒立て続けに食べた後は、しばらく蕎麦はいいや。
その代わり、家に帰り着いたら・・・何事も無かったとして、夜9時過ぎになるが・・・お疲れさまでした、と盛大にぐいーっと飲ろうじゃないか。そうしよう。空腹状態で飲んだら、きっとシビレるに違いない。よし、そうとなったらさっさと帰ろう。
トンネルを越え、宮城県側に入ったらそこは雨だった。宮城は昨日からずっと雨というわけか。つくづく、今回の山歩きは運が良かった。ありがとう、鳥海山。一度は撃退されたけど、今回はすんなりとリベンジを受け止めてくれた。その懐の広さに感謝。
(この項おわり)