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scene#038 [2005.09.18-19]

山で疲れたのではない、寝床で疲れたのだ 【唐松岳〜五竜岳】

(その3)

11:31

道を進んでいると、なにやら前方で登山道脇に座り込んでいる人が多い。

気が早い人はおべんとを広げていたり、ああっ、ビール飲んでる人もいる。ええのぅ。

さてはここが五竜岳山頂、そりゃー想定時間よりもかなーり早かったな、というわけでもなく、さて何事だろう。

みんな同じ方向を向いて座っているので、その視線の先を見やれば・・・あ、池がある。池には木道が延びていて、湖畔にまで行くことができる。なるほど、これが八方池なのだな。

健脚であれば30分の道のり、といったところか。特に悪路もなく、きつい登りもなく、これは確かにハイキングコースとしてお薦め。


11:31

八方池からの木道には、明らかにハイキング客ではない、登山客がぞろぞろと歩いていた。登山ツアーか、山岳会か何かだろう。下界に向かっているということは、昨日白馬岳か五竜岳あたりを登ってきたのだろう。

歩いている人の奥には、雪渓が見える。

9月になっても、険峻な白馬の山並みは雪解けを拒み続けている場所があちこちにある。

ふっ、まるで俺の心だぜ。

・・・

んー、こういう観光地で、この手の冗談を言うと、真剣に寒いからやめておこう。何だか独り身が寂しいのに、強がっているみたいじゃあないか。やばいやばいやばい。

でも大丈夫、僕の背中のザックにはビールという心強い友が常に一緒に居てくれるから。

うわ、もっと寒いぞ、おれ。

それ以前に大変なことに気が付いた。ビール買うの、忘れてた。うわあああ。

へべれけ紀行、失格だな。

でもまあ、ぬるいビール飲んでどうするんよ、という気持ちがあったのも事実。山小屋で少々高いビールを買ってでも、冷たい方が良いんじゃないかと思うわけですよ。

こういう発想を軟弱と言うのかもしれない。山小屋頼みの山歩き。でもごめん、美味いビールに関しては軟弱でいさせて。お願い。


11:31

八方池全貌。

こんな尾根の上にどうして池ができてしまったのか、不思議だ。見たところあまり大きくもないし、すぐに干上がってしまいそうに見える。川があるわけでもなし、水が流入するような事はないはずだ。きっと何か宇宙人との密約、とか政府の陰謀、とかそういうのがあるに違いない。


11:34

八方池を横目に見つつ、第三ケルンを通過。

このあたりになると、ケルンの規模が随分と小さくなってきた。ここまで石を運びあげるのがしんどかったんだろうか。

ケルンの大きさに比例する形で、通過する観光客の関心度合いも小さくなっていた。リフト降りて最初のケルンあたりでは、記念撮影をする人が多かった。それがどうだ、今やここでは誰も相手にしない。見慣れちゃったんですな。


11:34

八方池湖畔に通じる木道には入らず、そのまままっすぐ八方尾根を登っていくルートを選択した。上から八方池を見下ろす。

ガスが晴れていれば、水面に白馬三山の勇姿を映しこんで、とても綺麗だったんだろう。しかし今日は、深い色を讃えたまま沈黙していた。

折角だから湖畔まで行けばいいのに、と我ながら思う。しかし、出発一時間遅れの代償で、ここはぐっと我慢だ。先を急がないと。

それに、このトレッキングルートはとても気に入った。デートコースとして使っても良いだろう。来るべき日がきたら、再訪したいと思った。だから、八方池に行くのは「次回のお楽しみ」ということで。


11:36

八方池を見下ろす形で、小休止。栄養補給することにした。

鹿島槍ヶ岳の時、シャリバテになってしまった反省から今回はこまめに栄養補給だ。何だか怪しいパンをかじる。飲み物はウーロン茶。

くっそう、こういう絶景ポイントで食事をするんだったら、ビールを持ってくれば良かった。これだったら少々ぬるくても良いや。惜しいことをした。


11:49

八方池を過ぎると、先ほどまでの開放的な空間から、里山歩きをしているかのような空間になった。このあたりは木々が茂っている。標高2,000mオーバーの地形という気があまりしない。

このような木々が茂るだけの水分が土壌にあるというわけで、その水が先ほどの八方池を作っているのだろう。

歩いているうちに、ダケカンバ林になった。日差しがきつい晴天のときには、この林歩きは快適だろう。


11:53

木が茂っているのは僅かな距離だった。10分もしないうちに、また開放的な空間に躍り出た。

振り向いてみると、今まで歩いてきた八方尾根の雄大な景色と、八方池の神秘的な姿が見えた。いい景色だ。


11:57

ガスの中を出たり入ったり。

熱いお風呂と冷たいお風呂を交互に入ると、身体が活性化されるという療法があるけど、それと同じ効果はないだろうか?ガス有りとガスなしの空間をいったりきたりしたら、肌が綺麗になるとか。

思わずほっぺたを触ってみた。

 おおお、しっとりしてるぞ。

 ・・・汗で。

当たり前じゃ。


12:11

残雪というのは遠くから眺めるものだ、と思っていたのだが、進行方向にも雪が見えてきた。まだ春は遠いのだな、この地は。

いや、そうはいってももう秋なんですけど。

あれっ。

かろうじて、残雪はここまでの陣地縮小に留めることに成功。これからの季節、「いよいよ俺たちの時代が来た!」とばかりに、氷の面積を増やしていくことになるのだろう。

なんだか悔しいな。夏が負けた、って感じで。夏、もっと頑張れ。


12:17

扇雪渓、と呼ばれる残雪を回り込む。上から見下ろしたところ。

雪渓周辺には、子供連れの登山客が一休みしていた。子供達、白い氷を前におおはしゃぎ。

そうか、純粋な気持ちを持っていれば、こういう光景を夢中で楽しめるのだな。「あっ、雪渓だ。ふーん」と思ったまま素通りした自分が、何だか薄汚れた人間に思えてきた。

いかん、早くアルコールでお清めをしないと。

ここは特に眺めが良いわけではないのだが、複数の登山パーティーが雪渓を眺めつつ休憩していた。夏においては、氷を見るだけでも絶景。


12:17

ここで標高が2,361m。

こういう開放感溢れる道のりというのは、非常に歩きやすい。気分が晴れやかになる。ガスが晴れてきて、青空と緑のコントラストが美しい。

この八方尾根登山は、ひたすらこういうルートなので、快適なことこの上ない。とっても良い登山ルートだ。


12:19

とはいっても、少しずつ傾斜がきつくなってきたかな?


12:24

自分でも呆れるくらい写真を撮ってるな。さっさと前へ進め、前へ。

きりがないので、文章説明省略。

前方に、お山のてっぺんっぽい岩稜が見えてきた。いよいよ後立山連峰の稜線が近づいてきたかな?


12:28

うわー。ガスりまくりです。

まるで大友克洋のアニメのように、煙がどふぁーと吹き出ている有様。綿をつけすぎたクリスマスツリー、みたいだ。

北アルプスの難所として有名な「不帰(かえらず)キレット」あたりを撮影していると思われるのだが、こうもガスっているとどこがどうキレットなのかさっぱりわからない。チラリズムのかけらもない。わかってねーなー、セクシーっつーもんはもっとチラチラさせないと。

山を相手にセクシーを講義しても始まらないが、そう言わずにはおれない。


12:28

おっと、そんんな事を言っているうちにまたケルンに到着だ。

えーと・・・地図をがさごそザックから引っ張り出して調べてみたら、ここは「丸山ケルン」と呼ぶらしい。八方尾根ケルン集落の最後となる。さすがに随分と小さいケルンになっちまったなぁ。しかも、さっきの第三ケルンから随分と間隔が空いてしまっているし。

ケルンの周辺には、一瞬の雲の隙間を縫って写真撮影をしようとする根気強い人たちが、じっと待機していた。

雲は、自分の目線と同じ高さにあるし、見下ろしたところにもある。山に登った人だけが楽しめる光景だ。

「第四ケルン」ではなく、「丸山ケルン」と名前がついているのは、てっきり丸山さんという人が作ったからだと思っていたが、地図を読むとこのあたりのことを丸山と呼ぶようだ。なんだ。折角だから、僕が石を積み上げて、「岡田ケルン」を作っても良いと思っていたのに。


12:28

丸山ケルン周辺で休憩する人たちは、先ほどの八方池に居た人たちと明らかに人種が違っていた。観光ですー、楽しいですー、という雰囲気はなく、一言「山です。山なのです。」という感じ。ようやく、こっちの気持ちも引き締まってきたぞ。


12:32

気が引き締まってきたとはいえ、開放感がある上にそれほどキツくない山歩きだからすいすいと足が前にでる。

あー。

今頃になって気づいた。疲れの回復が非常に早いぞ、俺。

息があがっても、数秒立ち止まって息を整えれば、すぐに回復するのだ。おお、これぞフィットネスクラブでの鍛錬の成果だ。すげぇ。

逆に言えば、今まで山に登るというのに何にもトレーニングしてきていなかったということだ。トレーニングすると全然別世界って感じがする。いやー、山登りって楽しいわ。全然苦しくないぞ。


12:36

自らの身体が僅かながらマッチョな方向に進化したという事実に、男として深い感動を覚えつつ歩を進める。

稜線が見えてきた。えーと、あのあたりが丁度不帰キレットの筈だ。

写真右手が「天狗の大下り」と呼ばれる、天狗岳からの400m近い位置エネルギーの無駄遣い。底の部分がキレット。そこから一峰、二峰、三峰と続いて、ここから見えないところに唐松岳山頂が控えている、筈だ。

多分これで合っていると思うけど、違ったらすまん。

何しろ、ガスのせいで断片的にしか見えていない。「さてここはどこでしょう?」と言われても、即答しかねる。


12:48

これまでは広い尾根だったけど、そろそろ尾根の両側がきゅきゅーっと締まってきた。右も左も崖になりつつある。大きめの岩がごろごろ転がっているようになってきて、山の上に近づいてきたことがわかる。

さっきまでは登山ではなく、ハイキング。

ようやくここら辺から「登山」っぽくなってきたじゃあないか。盛り上がってきたぞぅ。

(つづく)

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