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scene#038 [2005.09.18-19]

山で疲れたのではない、寝床で疲れたのだ 【唐松岳〜五竜岳】

(その8)

06:33

世の中が滲んで見える。眼鏡にびっしりと水滴がつき、視界がゆがむ。カメラも、レンズに水滴がついたり結露したりでいつ壊れてもおかしくない状態だ。

こんな使い方をしているから、デジカメを毎年1台ずつ買い換えなければならないわけだ。なるほど我ながら納得だ。

前方から歩いてくる人がへろへろに見える。やあ、相当視界がゆがんだな。・・・いや、実際にへろへろだぞあれは。風にあおられて、左側にふわふわっと流され、そこで踏ん張ったところで風が急に止んでさらに身体が揺れる。大丈夫かな、この人。頑張れ。

多くの人がザックを背負わない状態で山頂を目指していた。五竜山荘に荷物をデポしておいて、山頂をピストンするのだろう。この人達はまだ良いのだが、デカいザックを背負って山頂を目指すパーティーもあった。話を聞いてみると、今日はこれから五竜岳に登った後八峰キレットを通過し、鹿島槍ヶ岳まで抜けて、そのまま種池山荘まで行くのだという。相当な強行軍だ。普通だったら冷池山荘でストップとなるはずだが、種池山荘までとなると相当な距離だ。ま、そういうガッツがある人でないと、この荒天の中を突き進むことは無理だろう。「ご武運を」と言って彼らを送り出した。大きなザックの側面に風があたり、身体が何度も揺すられていた。大変そうだ。


06:44

信州側が谷になっているところは風の通り道になっていて、ひょーぅ、という音とともに猛烈に風が突き抜けていった。

黒部側がなだらかなのに対し、信州は絶壁、というのはこの地においておなじ。後立山連峰は全部この傾向がある。


06:50

さて問題。この稜線、どっちが富山県でどっちが長野県でしょうか。

答:右側が長野県。

これまでの文章を読んできていれば、簡単な問題でしたね。


06:57

ほうほうの体で五竜山荘に戻ってきた。まだ朝7時前、日常生活だとようやく寝床から起き出す頃だ。

僕は何時起きだったっけ、今日・・・?というか、いつ寝たんだかあまり記憶にない。ああそうか、苦しい思いをして陣取り合戦を一晩中やっていたんだっけ。

山小屋の前には、今ようやく出発準備をしている団体がいた。団体の場合、個人客と違いこういうところでぱきぱきと動けないので大変だ。恐らく、食事を全員が食べ終わるまでには時間がかかっただろうし、やれお手洗いだ、歯磨きだ、荷造りだ・・・と全員の足並みを揃えていたらこんな時間になってしまった、という次第だろう。

そんな団体さんを後目に、僕はさっさと山荘にデポしておいたザックを担ぎ上げ、山小屋を後にした。食堂で優雅に朝ビールを、なんていう気分じゃない。体中びしょぬれ、疲れは蓄積する一方。このまま1時間2時間この場で粘ったとしても、天気が好転してあら絶景じゃあございませんか、ということは絶対ないだろう。ますます天気が悪くなるかもしれない。だったら、さっさと山を下りちゃうに限る。それ、さようなら五竜岳。


07:07

下山開始とはいえ、まずは遠見尾根の分岐まではちょっとした登りがある。標高2,541mの白岳から、分岐。


07:07

この辺りはなだらかで広い。赤茶けた粗めの砂利をがしゃがしゃと音を言わせながら、遠見尾根に侵入する。


07:09

遠くにケルンが見える。どうやらこっちの方角が遠見尾根のようだ。


07:16

なだらかでさりげない尾根道だと思っていたが、結構両側が切り立っているところもある。


07:17

さらに、鎖場もあった。

それほど凄くはない傾斜だが、ちょっと油断していた。

信州側に逃げ込んだので、黒部からの凶悪な風と雨は収まっていた。随分とリラックスした気分で下山ができる。こんなところで滑ったりしたら最高に惨めなので、慎重に下る。


07:28

前方にカラフルな一団がうごめいているのが見えた。団体登山の人たちだ。恐らく、昨日のうちに五竜岳山頂を踏破し、今日は下山するだけの状態なのだろう。五竜山荘を朝出発して、そのまま遠見尾根を下っていると思われる。

それにしてもカラフルだなぁ。でも、やっぱりレインウェアはこれだけカラフルのほうがいいよね、崖から滑落したときに目印になるからな・・・と思いながら後ろからついていく。自分のレインウェアは濃い緑。ハイマツの中に転落したら、発見が素晴らしく難しくなる。何で迷彩効果抜群な格好をしていなくちゃいかんのか我ながら不思議だ。


07:30

いらいら、いらいら。

さっきから10分以上、後ろにぴったりとくっついているのだが、彼らを追い越すことができない。あちらさんは団体なので、当然単独行の僕よりも歩調が遅い。

普通、こういう団体旅行の時には、最後尾にはサブリーダもしくはリーダクラスの人が配置されていて、後続の速い人の存在に気が付いたら「おーい、先に行かせてあげて!」と前に伝達するものだ。しかし最近のこの手の団体ツアーにおいてはそういう文化は衰退してしまったのかもしれない、全く最後尾の人が配慮をしてくれない。恐らく、先頭に一名、ガイドさんがついているだけのツアーなのだろう。

いらいら、いらいら。

「大自然の中を歩いているのに、何を苛立っているの?みみっちい」

と言われるかもしれないが、あまりに歩くペースが違う人に進路をブロックされたら、そりゃあ苛立ちますって。埒が明かないので、岩場で強引に団体を抜き去った。


08:09

尾根は、細いときもあれば太い時もある。

池塘、というよりも池に近い水たまりも尾根にはあった。


08:27

五竜山荘から下山を開始して約1時間半、標高2,106mの大遠見山に到着した。

この辺りは晴れていれば展望が良いそうだが・・・

まあ、そういうことだ。

ここでようやく一息いれて、下山続行。


08:27

高度を下げてきたお陰で少し空は明るくなったが、とはいってもまだ雨とガスは収まっていない。


08:48

うーわーあー

40名近い団体さんが目の前を塞いだ。先ほどの団体さんの比じゃないくらい、動きが遅い上に後ろをかまってくれない。既に何人かの単独行の人がこの団体に捕まっていて、じれったそうにしていた。僕もさらにその後ろに並び、同じくじれったそうにする。

前の人が、何とか前に行こうとするのだが、狭い登山道のために追い越しを有効にかけられる場所がない。いい加減休憩してくれないかなー、立ち止まったら一気に抜き去ることができるのになーと思うのだが、全然休んでくれない。ねばり強く、上り坂もますますの亀の歩みで通過していく。

しかも、こちらの気持ちを逆なでするように、前方のリーダーから「左側崖がありますので危ないです、きをつけてくださーい」という声を伝言ゲームのように反復していく。このレベルで危ないなんて言っちゃいかんですよ、もう・・・と聞いていたら、ああっ、目の前でずるっとその左側の崖に足を滑らせているおばちゃんがいた。何やってるのよ、もう。


08:59

この文章を読んでいる人の中に、団体登山を好む人も結構いると思う。そういう人に敢えてお願い。頼む、周囲には気を配ってくれ、と。団体行動だとどうしても動きが遅くなる。だからこそ、すれ違いの人、後ろから追いついた人については敏感に反応し、譲って欲しい。

結局、20分ほど団体行動の恐ろしさを目の当たりにし大満喫したあと、ようやく彼らを追い抜くことが出来た。

追い抜いた直後に到着したのが、中遠見山2,037m。

やあ、(晴れていれば)見晴らしがよさそうなところだ。座るには丁度良い岩があることだし、一休みを・・・といった風情だ。僕同様に団体客の背後霊としてつきまとっていた人たちが一様に休憩を入れようとしていた。僅かなタイミングで一気に抜き去らなくてはならないので、ちょっとオーバーペースになる。一息入れたくなるのは当然だ。

僕もおなじように一息いれようとしたが、今来た道の方からカラカラと熊よけ鈴の音が聞こえてきた。いかん、思ったよりあの団体客を引き離せなかったようだ。のんびり休憩していて追い抜かれて、また先ほどと同じ境遇に遭うのはごめん被りたいところだ。ふぅ、なかなか休みがとれんのぅ、では息を整えるだけに留めて、さっさと前へ進もう。


09:05

徐々に雲が晴れてきた。

・・・いや、違うな。今まで雲の中に居たのだが、高度を下げてきたので雲の下に出てきたのだった。お陰で、これから進もうとする尾根の輪郭がはっきりとみえてくるようになった。振り返ると、ガスの中に沈む尾根道。こんな状況の中登山するのは憂鬱だろうな。

雨はもうこの時点で止んだ。さああとは力強く下山するだけだ。

と、思ったのだが。

足が靴擦れになってきた。激しく痛む。どうやら、足の皮が一枚ずる剥けになったようだ。濡れた靴と靴下で長時間歩いていたので、擦れた皮膚が悲鳴を上げてしまったようだ。「小心者」と周囲の人から言われ、もともと面の皮すら薄い僕。足の皮なんてあっという間にむけてしまう。一歩踏み出す都度、「靴」と「靴下」と「足の皮膚」と「身体本体」が違った動き方をするのを感じる。あー、こりゃあお風呂に入るとすごく染みるなぁ。


09:11

小遠見山が見えてきた。標高2,007m。

登山地図には「鹿島槍の眺望良し」と赤字で記載されていたが、当然そんなものは見えるわけもなく。

ふぅ足が痛い。


09:18

木道歩きになってきた。


09:20

森の中を歩くような状況になったかと思ったら、細い尾根になったりとくるくると状況は変わる。酷いぬかるみの場所もあるし、比較的歩きやすいところもあるし。

おっと、雲の向こうから八方尾根が見えてくるようになってきた。随分と視界が開けてきたようだ。

(つづく)

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