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scene#040 [2006.09.02-09.03]

これは天災ではない、人災だ【西穂高岳】

(その2)

12:30

北アルプス登山案内図。

馬蹄形に山脈が連なり、新穂高温泉はその真ん中にあることがわかる。

これを見ていると、これからの行程がわくわくしてくる。さあ、登るぞぉ。

・・・ただし、ロープウェーだけど。

いや、ロープウェーを卑下してはいかん。ロープウェーを否定するなら、松本から徒歩でここまで来てみろってんだ。バスや車使ったらダメだぞ。

一人で仮想敵を作り、一人で言い訳する。何を興奮しているんだ。

やっぱりロープウェー登山、というところに引け目を感じているんだろうねえ。


12:31

まあ、ロープウェー登山の是非は兎も角としてだ。

そういうルートを選択したことによって、「登山」そのもの以外でワタクシの行動パターンに幅が出来たのは事実なんですよ。

それが何かというと、この新穂高のバス停の前には何やら公衆便所の巨大版みたいな建物があるわけですよ。何かというと「新穂高温泉アルペン浴場」。要するに、温泉施設だ。

この施設の秀逸なところは、ちゃんとした建造物の中にある風呂であるにもかかわらず、無料で入浴することができるということだ。寸志すら要求していない。ありがとう、地元の人。

そんなわけで、裏銀座を縦走して数日間風呂に入っていない人なんかは大変に重宝する。汗と埃でドロドロになっている登山客からすると慈母のような、なんとも素晴らしい施設だ。

下山ルートは焼岳、中の湯を想定しているので、このお風呂を楽しもうと思ったら今しかない。登山開始前に温泉というのはちょっと間が抜けているが、時間に余裕はある。折角だから入っちゃえ。


12:32

アルペン浴場は名前こそ聞き及んでいたが、実際に中に入るのは初めて。恐る恐る中に入ってみると、誰も入浴していなかった。ラッキー。さすがに正午過ぎ、こんな中途半端な時間にこのあたりをウロチョロしている登山客はあまりいないのかもしれない。一般の観光客は、まさかこんなところに無料浴場があるとは知らないだろうし。


12:33

もっと、人が2〜3人入れば一杯一杯のごった煮状態になる浴室なのかと思っていたが、意外や意外、十分に広いお風呂がそこにはあった。非常に素晴らしい。

温泉はざばざばとかけ流されている。泉質は単純泉(弱アルカリ性低張性高温泉)。泉温64.5度で毎分600Lの湧出だから立派なものだ。


12:33

さすがにシャンプーやリンスは置いていない。当たり前だ。

身体を本格的に洗いたいのであれば、持参すること。

途中で、バスの運転手さんが入ってきてさっと一風呂浴びて、また制服を着込んでバスに戻っていった。手慣れたものだ。それにしても、バスの折り返し待ちの間に温泉とはなんとも贅沢な話だ。


12:40

「いやー、ええのう」

一体何をしにここまでやってきたのか、さっぱりわからない状態になって参りました。まさかこの後、標高2,385mの森林限界まで登山するとはお釈迦様でも気づくまい。

ただ、小心者のおかでんのこと、まだ時間に余裕があることは分かっていたものの、何だかこの先の行程をおもんばかるとソワソワしてきてしまい、あまり長湯は出来なかった。湯温が高めだったということもあるけど。

恐らく、この湯温だと、日焼けして下山してきた登山客は「ひゃー」と情けない悲鳴を上げてしまうだろう。


12:44

「奥飛騨温泉郷 総湧出量27,766[l/min]」という表示があった。ものすごい湧出量だ。このあたりは巨大露天風呂のデパートだと言われるが、豊富な湯量のたまものだ。

奥飛騨温泉郷には6カ所の温泉地があるが、そのうち3カ所が単純泉、2カ所が炭酸水素塩泉、1カ所が低張性・弱アルカリ低温泉。

それにしてもこれだけの温泉が湧くとは一体水源はどうなってるんだ、と自然の神秘に対して改めて不思議に思う。自分自身に置き換えてみると、ビール飲み放題のビアガーデンでぐいぐい2時間ビールを飲んだって、せいぜいお手洗いに頻繁に行って2リットル程度しかおしっこが出ないんじゃないか。それを考えたらなんという規模感だ。

いや、比較対象が大きく間違っている気がするのだが、許せ。


12:50

お風呂からあがり、「いやありがとうございました」と何故かアルペン浴場に柏手とお辞儀をし、ロープウェイ乗り場に向かった。

徒歩5分程度、車道の坂を登る。さっきお風呂に入ったばかりなのに、早速汗をかいてしまった。

周囲は、セミの声が聞こえるだけで人の気配が少ない。観光地、という印象すら薄い。


12:54

ロープウェイのチケットを購入する。標高2,100mちょっとまでぐいぐいと登るわけで、途中1回乗り換えがある。だから結構なお値段になるのではないかと思ったが、片道1,500円。思ったより安かった。

このロープウェイ乗り場周辺に人が少ないのは、乗り継ぎ駅である鍋平高原まで車が入ることができるからだ。鍋平からはロープウェイに乗る人の数が増えるため、なんと二階建てのゴンドラが採用されている。チケットに、笠ヶ岳をバックに颯爽と登る二階建てゴンドラが印刷されていた。これは興味深い。


12:56

改札には既に行列が出来ていた。30分おきの運行ということなので、慌てて行列に並ぶ。乗りそびれると30分後になってしまう。

ただ実際は、乗客数が多い時は臨時便が出るということで、ロープウェイは客がはけるまでひたすらピストン運行してくれるらしい。気が利いていて大変によろしい。

おっと気を付けろ、手荷物8kg以上のお客様は片道300円の荷物券が必要らしい。自分の荷物、ノートパソコンや電源コードが入っている関係で8kg越えていそうだなあ・・・。

「いや、この荷物小さいっすよ」ということをPRするために、空気で膨らんでいるザックのあちこちを押さえ、空気を抜いてザックを小さくしてみせた。いじらしい努力だ。

だが、結局計測は一切行われず、そのままロープウェイに乗ることができた。乗り継ぎ後の二階建てロープウェイ乗車時もそうだったから、実際はあまり厳格に管理されていないのだろう。


13:04

「えええ?」と乗客が声をあげてしまうくらいの急上昇をし、数分後にロープウェイは乗り継ぎ駅である鍋平高原駅に到着。

到着してみたら、これから新穂高温泉駅に下山する乗客の行列が出来ていた。うーん、これだけの人があの狭いゴンドラに収まるのか。まるで、「電話ボックスに何人はいることができるか?」というギネスに挑戦みたいだ。でも人間うまく出来ているもんで、この人達は何も問題なくスムーズにゴンドラ内に収まった。人間って素晴らしい。


13:04

ロープウェイ乗り換え、といっても、同じ建物内で乗り換えられる訳ではない。鍋平高原の美しい自然をお楽しみ下さい、と言わんばかりに2分ほど外を歩いた先に次のロープウェイ乗り場がある。

外に出てみると、そこは高原リゾートといった風情が広がっていた。下界の新穂高温泉駅よりもよっぽど開けている感じ。駐車場の広さの関係もあって、多くのマイカー利用者はこの鍋平高原に駐車しているらしい。周辺をうろついている人の数が段違いに多い。


13:05

あら焼岳さんハロー。

一本、噴煙がもくもくと立ち上っていた。明日、あそこに登ることになるんかねぇ。


13:06

新穂高温泉駅からのロープウェイを降りた乗客一同は、我先にと次のロープウェイ乗り場へと殺到していった。定員オーバーで乗り遅れたら大変、というわけだ。その勢いに圧倒され、「ま、一本くらい遅れてもいいや」という気になった。

どうせ今日は1時間の登山で山小屋入りするだけだ。稜線歩きがあるわけでもなく、樹林帯歩きなので落雷の心配もないだろう。ゆっくり行こうや。温泉入って身体が暖まり、何だか気持ちがよい。16時くらいまでに宿に入ることができれば十分ってことにしておこう。

ロープウェイ乗り継ぎの行列を後目に、鍋平高原をちょっと散策してみる。

山の上にロープウェイの支柱が立っているのが見える。おや、そのすぐ脇をするすると何やら白いものが降りてきたぞ。


13:07

ほー。

初めて見た。二階建てゴンドラ。素晴らしく重そうだ。ワイヤーにかかる負担は尋常ではなさそう。上の階と下の階、どちらがお得感が高いんだろう?と観察したが、多分どっちも一緒だ。

こういうのを見ると、意味もなく手を振りたくなるものだ。「おーい」と手を振り、乗客も手を振り返す。いやぁ、夏空の下、何だか爽やかですなあ。

改めて自分に問うが、ホントに今日山に登るのかしらん。いや、大丈夫、背中にずっしりと登山ザックが食い込んでいる。この重さを感じる度に、「よし今回は西穂高岳を登頂するぞ」という意欲に繋がる。


13:08

とかいいつつも、ロープウェイ乗り場のすぐ脇に「飛騨牛ステーキ串」という看板が掲げられているお店を発見。ふらふらと惹き付けられてしまった。もうちょっと、もうちょっとだけ寄り道しちゃってもいいかしら、自分。

いやだってネ、まだお昼ご飯食べていないんですもの。栄養取らないで山に登るなんてそりゃ無謀ですよ、シャリバテしますよ。ええ。

シャリバテするというのはごもっともな理由だが、だからといってステーキ串を食べる理由にはならないが・・・まあいいか。ロープウェイ乗り場にあった蕎麦屋「鍋平」というお店で蕎麦でも手繰ろうか、と思っていたが、ここで蕎麦を食べるよりかは遙かに旅情があるでしょ、飛騨牛の方が。


13:10

とかなんとか適当な名目で購入しました、飛騨牛ステーキ串600円。

「すいませーん、飛騨牛ステーキ串を一つ・・・」

と注文した矢先に、目にとまったのは店頭の「飛騨牛コロッケ300円」という張り紙。飛騨牛はステーキだけじゃなくてコロッケにもなっていたのか。なんと怪しからんことだ、気になってしょうがないではないか。「すいません、コロッケも!コロッケも1つ!」

うーん、これだけ食べていると喉が乾いて仕方がない。「しょうがないなあ」と言いつつ、健康麦芽飲料も調達。ま、お約束ですな。


13:11

さあ、ますます山に登る気があるのかどうかわからない状態になってまいりました。

まずはよく冷えたビールをぐいーっと。

ひゃははは。笑えてきますな。青空の下、清々しい高原で飲むビール。あ、いかんいかん、健康麦芽飲料だった。あくまでもスポーツドリンクということで。

その後、飛騨牛ステーキをかじる。うむ、「さすが飛騨牛!」というほど飛び抜けて旨いという気はしないが、それなりに旨い。何しろこの串で600円もするのだ、中央高速道諏訪湖SAで売られているダチョウの串焼きよりも高い。


13:12

「ん!?」


13:12

先ほどのステーキ串屋、ロープウェイ降り口のところまで売り子として出向き、「揚げたての飛騨牛コロッケはいかがですかぁー」と声を張り上げていた。

ロープウェイ降りてすぐでコロッケなんて買うのかよ、心の準備が出来ていないし・・・と思ってみていたら、これが案外面白いように売れていた。「残り僅かですー」なんて売り子さん、嬉しそうに言う。やるなあ。

(つづく)

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