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scene#040 [2006.09.02-09.03]

これは天災ではない、人災だ【西穂高岳】

(その7)

05:47

大きな岩がごろごろしている中を歩く。

「おいお前ら、もう朝だ。起きろ」

と岩に向かって声をかける。

しかし、本当に岩が起きあがったらそれはそれで大変に登りづらい山になるので是非やめて頂きたい。寝続けてくださいお願いです。


05:48

稜線の西側にある笠ヶ岳にも、朝日が当たり始めた。日本の夜明け。

谷底に沈む新穂高温泉はまだ夜明け前。山深い場所なので、日が差すのは一日のうちでも短い時間だけだ。

・・・谷底に「沈む」という表現はちょっと絶望感溢れる表現だったか。沈んじゃいかん。


05:49

振り返ると、焼岳が朝日を浴びて綺麗に赤く色づいていた。良い登山日よりになりそうだ。


05:51

写真撮ってないでさっさと山に登れ、と思うが、日の出前後の時間は景色がドラマティックに変化していくのでそうもいかんのである。

おっと、自分がいるところにも日が昇ってきましたよ。おはよーございます。


05:53

西穂高岳山頂方面。なにやらギザギザしてますな。こちらもおはよーございます。

西穂高は険しい山だと聞いていたが、今こうして登っている稜線は非常に穏やかな道だ。何だ、大したことないじゃん、と思わせるわけだが、こうやって山頂方面を見ると決してこのまま楽なわけじゃないぞ、ということが分かる。


05:59

岩がごろんごろんしていたのが歩くにつれ少なくなり、低いハイマツが覆い繁る土の登山道になった。こういう道が一番歩きやすい。


06:03

と、思ったら、今度は細かい石がびっしりと敷き詰められたざれた道になっていった。一つの山を登っているのに、このめまぐるしく変わる状況たるやなかなかなもんだ。登山者を飽きさせない工夫が行き届いている。

いや、別に工夫しているわけじゃないけど。

こういう道の場合、歩き方を「登山モード」にしておかないと、歩くたびに足元が滑り、体力を消費する。一歩一歩、しっかりと歩く。うっすらと汗をかいてきたぞ。


06:14

山の傾斜はゆるやかに険しくなってきた。このままザクザクと登っていくにはやや厳しくなってきたので、道には丸太を使った段差が作られていた。ここをジグザグに、小刻みに右往左往しながら登っていく。


06:15

ジグザグを登っていった先に、岩山が見えてきた。

立派な、とんがり山だ。あれが目指す西穂高岳か・・・と感慨深い目つきで愛でてみたが、しばらくしてあの山は山頂ではない事に気が付いた。山頂手前にあるピラミッドピークだ、あれは。ああ、僕の愛情を返せ。

ピラミッドピーク、という名前はそのものズバリなネーミングでとても良い。しかし、○○岳、△△山、といった名前を与えられていないわけで、山としては「ちっ、所詮僕ぁ西穂高岳のおまけかよ」と思っているに違いない。

でも、それを言ったら、西穂高岳だって、「何でオレは『西』穂高、なんだよ。オレがメインじゃないのかよ」って心穏やかじゃなく思っているかもしれない。前穂高さんや北穂高くんとつるんで、「もっと僕らにだって独立した扱いを!」と主張したい所存かもしれぬ。

とはいっても、この山域では盟主である奥穂高先生だって、「いや、ワタシだってね、『奥』穂高なんですが。何かと比較されて、山奥扱いされてるわけですよ。ワタシも被害者なわけで」と言っているわけで、なんともはやみなさん不平不満の固まりなわけで。

結局、「誰が諸悪の根元だ?」と山同士が鳩首会議開いて検討してみて、「あ、上高地だ!」という結論になりそうな気がする。

で、上高地さんに「お前いい加減にせえよ」というプレッシャーがかかることになるわけだけど、上高地は上高地で、「いやでもボクも『上』高地って言われてるわけで」

延々と続く。

解説は写真に移っている風景に戻るが、ピラミッドピークの右側にあるごつい岩山、これが当面目指している「独標」という地点。標高2,701m。よく見ると、岩山の上にごま塩のようにぱらぱらと人が立っているのが見える。あそこまでは楽な道らしいので、早く目指そう。


06:23

おっと。稜線右側がよく見えるようになってきたと思ったら、一気に眼下に広がる上高地の景色。

といっても、上高地は梓川から立ち上った蒸気の影響で雲海(雲海、と呼ぶにはやや物足りないが、とりあえずそう形容しとけ)に覆われていた。

まだあの辺りは夜が明けていない。


06:25

遠くに見えていた独標が近づいてきた。

西穂高山荘で朝食を食べてから出陣した人の中では、僕が恐らく最速。ということは、あの独標の上に立っている人たちは朝ご飯もそこそこに、ご来光を見るために夜明け前に登頂を開始した人なのだろう。ご苦労様です。


06:29

独標に取り付くと、さすがのハイマツくんたちも「うひー、もう駄目」とハイマツ林を作るのを断念していた。ごつごつの岩肌がさらけ出されている。

その岩には、○とか×とか矢印が白いペンキで書かれている。○と矢印は有り難い指示であるが、×って何だ。「次はどこに向かえば良いのかな・・・」と思ってキョロキョロすると、つい×を発見してしまい、そちらに歩を進めてしまいそうになる。紛らわしい。

あっ、わかった。これ、「脳を鍛える大人のDSトレーニング」みたいなもんだ。×の印の方向に釣られて向かってしまうと脳年齢-5歳、みたいな。

とにかく、○によって指示されている「正しい、オススメ登山道」は複雑に左右折れ曲がっている。なかなか五感を使うルート選定だ。


06:34

というわけで、独標到着。登山開始から約1時間。

独標のてっぺんは大きな岩がごろんごろんしていたが、比較的広いスペースになっていた。お弁当を広げるには最適な場所といえる。

見ると、西穂高山荘の紙包みのお弁当を広げて朝食を食べている人も何人かいた。「いい天気ねー」なんて嬉しそうな声をあげて、ご飯をぱくついている。うん、ここで食べる朝食は絶品だろうな。


06:36

ここを最終目標地点としている人もいるようで、「時間も早いし、もう少し先に行きたいのにねー」なんて残念そうな声をあげているおばちゃんがいた。しかし、独標から西穂高岳に向かう、最初の下りが急なので、それを目の当たりにして「やっぱ無理よぉー」と悲鳴に近い声をあげて、無理だということを納得していた。


06:36

今来た道を振り返ってみた。

こんな感じ。なだらかな稜線歩きが続いてきたことがよくわかる。楽しい楽しい山歩き。


06:36

で、これから向かうピラミッドピーク、西穂高山頂方面。おお、確かに急に雰囲気が変わってる。

男たるもの、こうあるべきだな。

最初は羊で、途中からオオカミ。


06:41

独標からぐぐぐぃと岩肌を降りる。

鎖場が展開されているので、一人一人順番に降りる。鎖に同時に複数名がぶら下がっちゃうと、芥川龍之介の「蜘蛛の糸」だ。みんな地獄に堕ちちゃう。

降りたところからピラミッドピークを見上げると、おおお、これからここに登らないといかんのか。こりゃ岩だねえ。誰がどこから、どう見ても岩だねえ。

登りがいがあるってぇもんだ。さすがに昨日みたいにビール漬けだったら、こんなところを登ったら、山に登るんじゃなくて天国に昇ってしまうに違いない。アブねぇ。


07:00

写真は一気に飛んでピラミッドピーク。

途中の写真が一切無いってのは、登山に集中してたってわけか。勿体ない。途中経過こそ、この「へべれけ紀行」の醍醐味だってぇのに。

ま、それだけ一気に登れたってこった。

ピラミッドピーク到着。

ちゃんと、「ピラミッドピーク」と書かれた標識が出ていた。


07:00

さらにご丁寧に、足元の石にも「ピラミツド」と書かれていた。誰が書いたんだ、これ。見落とすぞ。

標識は比較的新しいものだったので、それが出来るまではこの石が標識代わりだったんだろうか??


07:01

さて、ピラミッドピークまで来たら、ようやく西穂高岳のご本尊が見えてくるようになった。

さらになにやら怪しい岩肌だ。稜線も細い細い。どうやって登っていくんかいな、これ。

(つづく)

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