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scene#040 [2006.09.02-09.03]

これは天災ではない、人災だ【西穂高岳】

(その9)

09:45

一気に高度が下がってきた。足の親指が痛い。どうやら、軽い靴擦れを起こしたようだ。さらに、大腿四頭筋に疲労物質が蓄積されてきた。我ながら弱いと呆れる。

丸山から今きた道を振り返ってみたところ。あー、西穂高岳山頂付近はガスに包まれ始めていた。ゆっくりと山頂に向かって行った人、ご愁傷様です。

やっぱ、山は早朝に限る、ということだ。


09:53

西穂高山荘に戻って参りましたよ。

山小屋前の広場は、僕同様に西穂山頂からピストンしてきて達成感と共に一休みしている人、上高地からのぼってきて、さあこれから西穂高岳に登るぞと気合いが入っている人、朝早くからロープウェイ使ってここまで来ちゃいましたーという人が入り乱れていた。


09:59

とりあえず、飲むかぁ。

正直足が痛いし、焼岳山頂付近はガスり気味。予定通りこのまま焼岳に向かって縦走するかどうか、思案のしどころだ。

そもそも、今晩の泊予定地にしている中ノ湯、ここに空き室があるのかどうかはまだ未確認だ。満室だったら、泣きべそをかきながら夜、松本に一泊するか深夜に東京に戻るか、それとも平湯温泉あたりで宿を探すことになる。不確定要素が強い。

さらに言うと、「日本秘湯を守る会」のスタンプ台帳を忘れてきてしまったので、中ノ湯に宿泊出来たとしてもスタンプが貰えず、スゲー損した気持ちになる。そういうことをもろもろ考えるとだ、まあなんつーか、もうヤメにしてさっさと下山しちまったほうがええんでないか、という気がしなくもないんである。というか、そういう気になってきたんである。

昨晩よく眠れなかったし、今日家に帰って、明日一日体力回復に努めるってえのはどうよ。どうなのよ。

自問自答しつつ、ビールをぐいーっと。

ああ。

ここでビール飲んじゃってる時点で、もうやる気無くなってるんじゃないですか御仁、という予感が。


10:08

優柔不断っぷりならこの山域で3本の指に入る、と自負しているワタクシ、判断つきかねたので時間稼ぎに出ちゃうのだ。えへんえへん。

朝受け取った、西穂山荘謹製のお弁当をザックから取り出す。

西穂山荘の目の前で、お弁当を取り出すというのはなんだか意味がないことやってるなあ、と我ながら思う。それだったら、山荘の食堂でラーメンでも食べれば良かった。何でわざわざ重くなるお弁当を背負って山にのぼったんだか。トホホ。


10:09

思ったよりデカい包みだな、とは思っていたが、開けてみて納得。おむすび2個に、おかずが入った容器の組み合わせ。練り物、ごぼう、煮豆など。これで山小屋物価800円というのはお得と言える。ありがとう西穂山荘。

と感謝しつつ、西穂山荘の軒下で、先ほど西穂山荘の自販機で買ってきた、よく冷えたビールと共に頂く。なんだか変だけど、まあいいや。


10:19

靴下を脱いで、足の親指を確認してみた。あー、水ぶくれができる3秒前、の状態の皮膚を発見。うっすらと白くなっている。真皮から剥離する寸前だ。

このまま焼岳に突撃したら、多分途中で僕は一皮も二皮もむけたイイ男になってしまうに違いない。

ドクターストップ。

いや、僕ドクターじゃないんですけど、とりあえずドクターストップ。何がとりあえずかわからないけど、これ以上続行するのはやめておいた方がよさそう。足も予想外に疲労が蓄積しているし。


10:30

しばらく、未練たっぷりに「上高地、焼岳」と書かれた登山道案内看板をにらみつけていたが、やっぱり下山を決断。

山を下りて、またアルペン浴場で温泉を満喫すっか。

下山したところに温泉がある、というのはもの凄く魅力的なんである。僕が登山を断念したのは、温泉がおいでおいでをしているというのも大きな理由の一つ。


11:05

昨日、ふうふう言ってのぼってきた道を下る。

足が痛いので、ゆっくりとしたペースで進む。途中、「騙されたー」「疲れたー」なんて言いながらのぼってくるハイカーと多数すれ違った。多分、ロープウェイ乗り場から見えた西穂山荘が非常に近く感じたので、軽いつもりで突撃したのだろう。

「あとどれくらいですか?」なんて聞かれたので、「そうですね、あと15分くらいは今と同じくらいの汗をかいてください」と無情な回答をしておいた。無理なら無理で、登山口に引き返した方が本人のためだ。


11:23

昨日、登りに要した時間とほぼ同じくらいの時間をかけて下山してきた。

登山道入口では、ロープウェイ乗り場からやってきた観光客が何人も立ち往生していた。

「どうしようか。ここから先は装備が無くちゃ駄目って書いてあるけど」

「もう少し先に行ってみてから判断しようか?」

なんてカップルが相談している。もちろん、軽装で山にのぼることができる格好ではない。ってかアンタ、ヒールがある靴履いてるじゃん。駄目じゃん。

別のオッチャンは、しばらく思案したのち山道に突撃していったが、1分程度で戻ってきた。そりゃそうだ。

登山道入口近辺の道は、さも遊歩道的な感じであり、なおかつ傾斜が緩いために判断を誤らせてしまうらしい。ちゃんとした装備をしていないと無理だから絶対やめとけ。


11:31

うわー。稜線が完全にガスに覆われてしまった。撤退して正解だったかもしれん、これだと。


11:32

ロープウェイ乗り場近辺にもガスが立ちこめてきた。山の天気の変化は早い。あっという間に・・というのは言い過ぎだが、あああああーーーーっという間に周囲が白く染まっていった。

「昔、秋田の冬の海はハタハタの産卵時期で、オスの精子のため海が真っ白く染まったというけど、まさにそれやな」

例えが変だ。


11:36

ほら。たった数分でこんな状態。

真っ白い空気を割くように、二階建てロープウェイが登ってきた。あ、いかん、自分もそろそろ下山準備しないと。


11:36

下りロープウェイのチケットを買おうとしたが、売り場が存在しなかった。みな一様に往復チケットを購入しているので、売り場を用意する必要が無い、ということらしい。

仕方がないので、改札のところでチケットを購入したが、そのため僕より後ろの行列は僕のチケット購入が終わるまで立ち往生。

でも、そのお陰で、「○○さんがまだ戻ってきていないんですけど!」と大騒ぎしていた添乗員さん、僕がチケット買っている間に○○さんが戻ってきたので一安心だった。


12:01

ロープウェイで一気に下る。最大斜度は32度あるという。

ぐぐぐーっと下っていき、支柱のところでぐわーんと揺れて、やっぱり乗客から悲鳴があがる。

標高を下げると、急速に真っ白なガスが晴れていく。さっきまで、展望台で真っ白なしょーもない光景を満喫させられた観光客は、「えー、ガス晴れちゃったよー」と不満の声。


12:05

一気にガスが晴れた。あらら。山の上のほうだけ、ガスってたんだな。下界は綺麗に晴れ渡っている。良いお天気ですな。

鍋平高原が見えてきた。


12:14

鍋平高原にあるビジターセンターに立ち寄る。奥にあるシアターでは、西穂高岳を中心とした北アルプスの山岳空撮映像を紹介していた。山好きにはたまらない映像だ。

ビジターセンター内のお土産売り場でこのDVDが売られているとのことだったので、購入することに決めた。全部ここで見てしまうのは勿体ないので、途中退席。


12:27

で、購入したDVD「限りなく天空に続く道」。

裏銀座縦走ルートあたりの空撮映像もあって、なかなかに楽しめるものだった。しかし、さすがに制作者の意向があってか、画面のあちこちに新穂高ロープウェイの映像が映りこむ演出だった。まあ、見苦しくなかったから良かったけど。


12:27

折角新穂高に来たのだから、友達にもお土産を買ってかえることにした。

とはいってもここは山の中、それほど魅力的なものがあるわけではない。飛騨高山名物の「猿ぼぼ」なんて買っても、「何じゃこの気持ち悪い生き物は!」と言われるのがオチだし、ここは大人しくお菓子にしておこう。

「雷鳥たまご発見」というごま餅を購入。


12:30

リラックスしまくっちゃいけない、まだもう一回ここから山を下りなくちゃいけないんだった。

ロープウェイ乗り場に向かう。人で一杯だ。登ってくる人も一杯で、上りも下りも人、また人。


12:34

非常に急な斜面を、一気に下る。日本有数の斜度だとか車内アナウンスでは言ってたような気がするが、どうだったかな。

(つづく) 

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